「なぜ、全ての鍵の開ける方向を同じにしないのか」。多くの人が一度は抱くこの素朴な疑問。もし、全ての鍵が「右に回せば開く」のように統一されていれば、日々の生活で迷うこともなくなるでしょう。しかし、鍵の開ける方向が統一されていないのには、いくつかの理由があります。最大の理由は、前述した「ドアの開き勝手とドアノブの位置」に合わせた、人間工学的な設計思想です。ドアには、ドアノブが右側にある「右勝手」と、左側にある「左勝手」が存在します。多くの錠前メーカーは、利用者がより直感的に操作できるよう、このドアの勝手に合わせて、施錠・解錠の方向を変えた製品をそれぞれ製造しています。これにより、「ドアノブのある方に回して施錠する」という、一連の動作がスムーズになるのです。もし、全ての鍵を「右に回せば開く」に統一してしまうと、左勝手のドアでは、ドアノブを操作する動きと鍵を回す動きが不自然になり、使い勝手が悪くなってしまいます。また、防犯上の観点から、あえて上下の鍵で回転方向を変えているケースもあります。これは、ピッキングなどの不正解錠を試みる侵入犯に対して、作業をより複雑にし、わずかでも時間を稼ぐための工夫の一つと考えられています。さらに、海外から輸入された錠前が使われている場合、その国の標準的な設計が日本のものとは異なるため、回転方向が逆になっていることもあります。このように、鍵の開ける方向が統一されていない背景には、利用者の使いやすさを追求した結果としての「多様性」や、「防犯性」への配慮、そして「文化や規格の違い」といった、様々な要因が絡み合っているのです。一見不便に思えるこの違いも、実はそれぞれのドアにとって最適な形を追求した結果なのです。