新しい生活のスタートとなる賃貸物件への入居。その際、当たり前のように請求される項目の一つに「鍵交換費用」があります。なぜ、すでにある鍵をわざわざ費用を払ってまで交換しなければならないのでしょうか。その理由は、あなたの安全とプライバシーを守るための、最も基本的で重要な自己防衛策だからです。前の入居者が退去した際、全ての合鍵が返却されたという保証はどこにもありません。前の入居者本人はもちろん、その家族や恋人、友人、あるいは過去に関わったリフォーム業者やハウスクリーニング業者などが合鍵を持っている可能性はゼロではないのです。悪意がなくとも、どこかで紛失した鍵が誰かの手に渡っているかもしれません。もし、それらの鍵が悪意のある第三者の手に渡っていたら、と考えると、そのリスクの大きさがわかるでしょう。鍵を交換しないまま新生活を始めるということは、見知らぬ誰かがいつでも家に入れる状態を容認するのと同じことです。これは、空き巣やストーカーといった物理的な防犯上のリスクだけでなく、「誰かに入られるかもしれない」という精神的な不安を常に抱えながら生活することにも繋がります。国土交通省のガイドラインでも、入居者が入れ替わる際の鍵の交換は、物件の管理上、また安全性の確保の観点から望ましいとされています。賃貸物件の鍵交換は、単なる慣習や不動産業者の利益のためではなく、新しい入居者が過去の人間関係やトラブルから完全に切り離され、まっさらな状態で安心して暮らすための「儀式」であり、不可欠なセキュリティ投資なのです。これから始まる新生活の安全を守るための第一歩として、その重要性を正しく理解することが大切です。