「同じ形のカードなのだから、簡単にコピーできるはず」。そう考えるのも無理はありません。しかし、ICカードキーが従来の金属キーと決定的に違うのは、それが単なる「形」ではなく、目に見えない「情報」で認証を行っている点にあります。カードキーの複製が難しい理由、それはICチップの中に張り巡らされた、高度なセキュリティ技術にあります。多くの非接触型ICカードキーには、製造段階で書き込まれた、世界に一つだけの固有識別番号（IDmやUIDなどと呼ばれます）が記録されています。セキュリティレベルの低い古いシステムでは、この固有IDだけを照合してドアの開閉を許可していました。街の合鍵屋さんで行われる複製は、この固有IDを読み取り、空のカードに書き込む「クローン作成」が主流です。しかし、この方法はあまりにも簡単に複製できてしまうため、現在の多くのセキュリティシステムでは通用しません。近年の主流である「Mifare（マイフェア）」や「FeliCa（フェリカ）」といった規格のICカードは、固有IDの領域とは別に、自由にデータを読み書きできる複数の「暗号化領域」を持っています。高度なセキュリティシステムでは、固有IDの照合に加えて、この暗号化領域に書き込まれた、そのシステム独自の暗号鍵（合言葉のようなもの）が一致するかどうかを二重、三重にチェックしているのです。この暗号鍵は、外部から不正に読み取ることが極めて困難なように設計されています。たとえ固有IDを完璧にコピーできたとしても、この暗号鍵が分からなければ、システムはそれを偽物と判断し、ドアを開けることを許可しません。さらに、最新のカードキーでは、通信そのものが暗号化されていたり、一度きりの使い捨てパスワード（ワンタイムパスワード）を生成する仕組みが導入されていたりと、そのセキュリティは日進月歩で進化しています。カードキーの複製が難しいのは、私たちの安全を守るために、メーカーが絶え間ない技術開発で築き上げてきた、目に見えない防御壁があるからなのです。