今や軽自動車から高級車まで、あらゆる車に標準装備されているキーレスエントリーシステム。しかし、この便利な機能が当たり前になるまでには、長い技術の進化の歴史がありました。その変遷を辿ることは、私たちのカーライフがいかに快適になってきたかを再認識させてくれます。キーレスエントリーの黎明期、1980年代から90年代初頭にかけて登場したのが「赤外線式」のシステムです。これは、テレビのリモコンと同じ原理で、リモコンキーから発信される赤外線信号を、車体側の受信部に向けて送ることでドアロックを操作するものでした。当時は画期的な高級装備でしたが、リモコンを正確に受信部に向けなければならず、間に障害物があると反応しない、太陽光が強い場所では誤作動しやすいといった弱点も抱えていました。この弱点を克服するために、1990年代中頃から主流となったのが、現在もおなじみの「電波式」です。電波を使うことで、キーの向きや障害物を気にすることなく、ポケットの中からでも操作が可能になり、利便性は飛躍的に向上しました。また、それぞれのキーに固有のIDコードを割り当てることで、セキュリティ性能も高められました。そして2000年代に入ると、キーレスエントリーはさらなる進化を遂げます。それが、ボタンを押すという行為すら不要にした「スマートキー(キーフリーシステム)」の登場です。キーを携帯しているだけで、ドアノブに触れると解錠し、エンジンのスタートボタンを押すだけで始動できるこのシステムは、まさに車の鍵の概念を覆す革命でした。当初は一部の高級車だけの装備でしたが、技術の進歩とコストダウンにより、瞬く間に大衆車にも普及し、現在に至ります。鍵穴に鍵を差し込んで回すという、かつては誰もが当たり前に行っていた行為は、わずか数十年で過去のものとなりつつあります。赤外線から電波へ、そしてスマートキーへ。キーレスエントリーの進化の歴史は、より快適で、より安全なカーライフを追求し続けてきた、自動車技術者たちの情熱の物語でもあるのです。
赤外線からスマートキーへ、キーレスエントリーの進化の歴史