ディンプルキーに交換した後、家族の分など追加で「合鍵」が必要になった時、多くの人がその作成費用の高さと手続きの煩雑さに驚かされます。昔ながらのギザギザの鍵であれば、近所の合鍵ショップに持ち込めば、ものの数分、数百円で作成できたのに、なぜディンプルキーは数千円以上もして、時間もかかるのでしょうか。その理由は、ディンプルキーが持つ高度な「セキュリティ思想」に深く根差しています。ディンプルキーの合鍵作成が高価で手間がかかるのは、まさにその「作りにくさ」自体が、防犯システムの一部として設計されているからです。まず、技術的な側面として、ディンプルキーの表面にある複雑なくぼみを正確に再現するには、非常に高精度な専用のキーマシンが必要です。これは一般的な合鍵ショップには置いていない高価な機材であり、誰でも簡単に複製できるものではありません。さらに重要なのが、法的な、あるいは制度的な側面です。多くのディンプルキーメーカーは、自社製品の鍵の形状に「特許」や「意匠登録」を申請しています。これにより、メーカーの許可なく第三者が同じ形状の鍵を複製することを法的に禁じているのです。この制度によって、不正な合鍵の流通を防いでいます。そして、このセキュリティを担保するのが「セキュリティカード(登録カード)」の存在です。ディンプルキーを新しく購入すると、クレジットカードサイズのカードが付属してきます。このカードには、その鍵固有のID番号が記録されており、メーカーに合鍵を注文する際には、このカードに記載された番号の提示が必須となります。つまり、このカードを持っている正規の所有者でなければ、合鍵を注文することすらできない仕組みになっているのです。この厳格な本人確認プロセスがあるからこそ、私たちは「自分の知らないところで勝手に合鍵が作られる」というリスクから守られています。ディンプルキーの合鍵作成の手間と費用は、私たちの安全を守るための「見えないコスト」。それは、不正複製という侵入経路を断ち切るための、極めて合理的なセキュリティシステムなのです。