自宅の玄関の鍵は、ドアの勝手によって開ける方向が異なることが多いのに、なぜ自動車の鍵は、ほとんどの車種で「運転席側から見て、反時計回り(左)に回すと解錠、時計回り(右)に回すと施錠」という方向に統一されているのでしょうか。この背景には、自動車という製品の特性と、世界共通の安全基準に対する考え方が関係しています。最大の理由は、自動車が「グローバルな工業製品」であるという点です。自動車は世界中の国々で販売され、使用されます。そのため、国や地域によって操作方法が異なると、利用者が混乱し、安全上の問題を引き起こす可能性があります。特に、鍵の操作のような基本的な機能については、国際的な標準規格(ISO)などによって、ある程度の統一性が図られています。これにより、メーカーや車種が変わっても、あるいは海外でレンタカーを借りたとしても、ドライバーは同じ感覚で鍵を操作することができるのです。また、多くの国で自動車は「右側通行」であり、運転席は「左側」にあります。この左ハンドル車の場合、ドライバーが車を降りて鍵をかける際、ドアを閉める動きから自然に時計回りに鍵を回す方が、人間工学的にスムーズな動作となります。この左ハンドル基準の設計が、世界中の多くの車で標準となっているのです。日本のような右ハンドルの車でも、このグローバルスタンダードがそのまま採用されています。さらに、現代の自動車では、リモコンキーやスマートキーが主流となり、物理的に鍵を鍵穴に差し込んで回す機会は激減しました。しかし、バッテリー切れなどの緊急時に備えて、物理キーの操作方法は、こうした伝統的で世界共通の仕様が今なお引き継がれているのです。自動車の鍵の開ける方向が統一されているのは、世界中の誰もが安全かつ直感的に操作できることを目指した、ユニバーサルデザインの思想の表れと言えるでしょう。
自動車の鍵を開ける方向はなぜ統一されているのか?